ばたんと勢い良く扉が開かれたのは、ウィリアムとアルテアが酒を飲んでいるところであった。
訪れた者が誰かは解っていたものの、ゆっくりと過ごす時間に騒がしいなと眉を下げた。
「どうしたんだ、サラフ。君は今頃……その、風竜の城にいるはずでは」
婚姻間近だったはずなのだ。それが慌てた様子で夜更けに飛び込んできたのは、何事かがあったからなのか。
眉を下げたウィリアムに問われ、まだ息を整えている最中のサラフが強張った表情で呟く。
「ウィリアム、助けてくれ」
「ほう、風竜か。対価は支払う準備があるんだろうな?」
助けを求められた訳でもないはずが、グラスを傾けたアルテアが応じた。
サラフの視線の先、擬態をせぬままに白い髪を晒したアルテアが、艶然と唇の端を持ち上げる。
「なに、今すぐ対価をとは言わんが、そうだな……風竜なら希少な素材だ、良い取引が出来るだろうよ」
「白持ち……? ウィリアム、こっちは誰なんだ?」
若さ故か、性質なのか、考えの足りなさそうな風竜がアルテアの髪の色に気付き、狼狽える。
「アルテア、俺の庇護する者を脅かさないでもらえませんかね」
サラフには高位の魔物とだけ告げ、訪ねてきた理由を確認すると、それは中々に繊細な問題だった。
「こどものつくりかた……」
「このような事を聞けるのはウィリアムしかいないのだ。風竜存続のためにも教えて欲しい」
「やけにぐいぐい来るな……」
ウィリアムが困り切った様子で眉を下げたところでアルテアが悪辣な表情を浮かべる。
「教えてやったら良いだろう、実地でな」
「実地で……」
とは言えサラフの眼前にいるのは男性が2人である。女性を相手にするのとは違うのではないだろうか、と聞けば挿れる場所の違いしかない、と言われてしまい、それならとウィリアムに縋る。
そっと袖を引き、子供の頃と同じように。
「ウィリアム……頼む、あなたにしか頼めないんだ」
庇護した相手に縋られ、断れるような性格ではないのだ、ウィリアムは。
暇潰しにと訪ねてきた先で面白い事になったとアルテアは不穏な笑みでそれを見ている。
諦めたのか、片手で顔を覆ってしまったウィリアムの腕を引いて立ち上がらせ、顎でサラフに寝室を示せば、風竜の王はどこかおどおどした様子で後追いをしてきた。
「竜であろうと身体の造りはそう変わらんだろうさ」
そう言いながら、白い髪の魔物はウィリアムの服を剥ぐ。
ベッド脇の椅子に座らせられ、手慣れた様子に息を飲めば、ウィリアムは困惑していても拒絶をしている様子は見えない。この親密な行為を見せる事に否やはないのだろうか、とそれでも視線を外さずにいると白い髪の魔物――ウィリアムの言によればアルテアという名らしい――が寝台に押し倒したウィリアムを背後から抱き竦め、サラフに見えるよう身体を開いた。
「そうだな、流石に身体の造りはどうしようもないが……まあ、手順は変わらんだろう」
白手袋を嵌めたままの手が、ウィリアムの身体を辿るのが見えた。目許を染めて、それでも抵抗しないウィリアムの伏せた顔、その表情に息を飲む。
甘い毒を多分に含んだような声が、ウィリアムを弄う。
「ほら、見せてやると良い。どこに触れられたら、この身体がどうなるのかを、な」
「他人事だと思っていませんか、アルテア。……俺の身体がこうなったのは……こうしたのは、貴方でしょうに」
背後から抱きしめるように伸ばされたアルテアの左の手が、緩くウィリアムの喉を撫であげ、右の手が腹を撫でるのをみる。ひやりとする悪意を底に秘めた声が耳朶に届いた。
「お前も愉しんでいただろうが。……良いか、まずは慣らせ。落ち着きなく触ろうと、拒む相手じゃないんだろうがな」
サラフの事情を知っているかのように、凄艶な顔貌の魔物が告げる。目にしただけで震えが走る程の精神圧に、サラフは声も出せないまま頷いた。
ウィリアムの肌蹴られた胸許が、靭さを見せる首筋が、血の色を透かして薄紅に染まっている。高位の魔物の美しさは知っていたはずが、この生々しい艶は目にしたことがない。アルテアを見れば、背後からウィリアムの耳朶を喰み、指先は緩く肌を撫でている。微かに呻くウィリアムの声も、苦痛ではなく堪え切れない情動に溢れた物だと理解できた。
「そうだな、お互いに知った仲なら……怯えないように仕向ければ良いだろうさ」
指先が胸を辿り、ぷくりと膨らみを見せる頂きに触れる。ウィリアムの顔よりも赤く染まり、触れて欲しいと言いたげなそこを摘み、こりこりと捏ねれば、ひくりと身体が跳ねた。徐々に深く侵食するかのように手が動くと、ウィリアムは切なげな吐息を零す。
「慣らせば男だろうが女だろうが変わらん。まずは探りながら触れてみる事だな」
ウィリアムの肩口に歯を立て、下を半分剥いだところでサラフに見えるよう、その両膝を抱えて開かせる。
羞恥なのか、欲情なのか、赤く染まった顔を俯かせ、されるがままだったウィリアムは、欲情の兆しに露を零す雄の印を、恥じらいからかそっと手で隠そうとしている。
「隠すな。今更だろうが」
がり、と頸を噛まれたらしく、薄らと血の色を見せる首筋も露に、ウィリアムは首を振る。
「アルテア……これ以上は……」
「ここからが本番だろうに。なあ?」
話を振られても、熱に当てられたようにサラフはもう頭が回らない。
眼前の保護者は、雌のように発情しているではないか。その背後の魔物は番のように、その肌を弄んでいるではないか。その痴態に掻き立てられた情欲が身の内に湧き上がる。低く響くウィリアムの声が、徐々に蕩けて甘くなる。
ふとアルテアの右手がウィリアムの唇を割り、抵抗を見せるかのように咬みつく歯の元に手袋を残した。
その手が肌を撫で下ろし、脚の間を探ると、ウィリアムがひくりと息を飲む。
「女ならもう少し前……この位置に孔があるが、慣らしてやるのが良いだろうさ。何しろハーレムなら乙女揃いだろうからな。……ウィリアム、お前も慣らして欲しいだろう?」
甘い毒の滴るような、それでも美麗な声が囁いた。
返事を聞くまでもなく不埒な手は足の間を撫で回し、女性であればこの位置だと指で示す。
勃ち上がった雄の根本を擽る指にウィリアムが甘く呻き、けれど抵抗を見せず蹂躙を許している。
身体を弄られ、雄の印に触れられるでもなく昂らされているというのに。
「そうだな……女ならここまで欲情すれば濡れるものだが」
男はそうもいかないからな、とアルテアが虚空から小瓶を取り出した。
「こういったモノなら無論女相手でも使えるし、乙女が相手であれば尚更だろうさ」
とぷりと粘液を手に滴らせ、緩く掌で揺らせば甘い香りが立ち上った。
ぐい、と開かせた脚の間に塗り付け、指先で揉み解す。白い肌の奥、薄赤い肉が覗くのに視線が惹きつけられる。
手袋と共にほろりと吐息を零したウィリアムの顔は上気し、蕩けたような表情を見せていた。
「期待していたんだろう?」
「期待、なんて……」
弄う声に首を振るが、アルテアの指が侵食を始めると、ウィリアムは背後に甘えるように身体を預けてしまう。
「俺の……恩寵では、ないと……貴方が言ったんじゃないですか」
「お前は俺の恩寵ではないな。ないが抱いてはいけない訳じゃないだろう?」
酷い遣り取りは、それでも手慣れた様子で情を交わす邪魔にはならないようで、肩を押されて俯せに抑えつけられたウィリアムはシーツに顔を埋め、震える吐息を漏らした。
手の動きは隠れて見えないけれど、身体を拓いているであろう粘ついた音は続いていた。
時折ひくりと息を呑み、背を逸らすウィリアムの上で、凄艶な魔物が冷たく笑んでいる。
「そろそろ良さそうだな」
服を乱しもせず、右手だけ素肌を晒した魔物が艶やかに笑む。
腹から掬い上げるように上体を持ち上げ、頸をきつく咬みながら。
背後からの挿入にウィリアムが仰け反った。
「ァ……っ」
身体を繋げられて低く、甘く、蕩けた声が溢れた。
腹がひくひくと痙攣し、上体を仰け反らせたウィリアムが鳴く。
背後から伸びた手に胸を鷲掴まれ、揺さぶられる身体。上がる声は徐々に甘さを増し、背後からの口付けの合間に吹き込まれた呼気でその声は艶を増す。
胸の頂きを指先が擦ると、ウィリアムの雄はひくりと跳ねてそこが悦いと応えている。
揉まれて形を変えた胸は雌より軟らかそうにふるりと揺れた。
「ある、てあ……うぁ、は……っ」
「発情しきったな……よく見ておけ。男だろうが女だろうが、悦い所を責めてやれば、いずれこうなる」
喉の奥で嗤う残忍な魔物に蹂躙され、ウィリアムが声を零す。身体を隠す事も忘れたかのように、与えられる快楽に溺れ、突き上げられる度に追い詰められ、快楽の淵から追い落とされる。
腹の最奥まで突き上げられているようで、時折ウィリアムの腹の形が歪み、膨れる。その激しさが空恐ろしいとすら思えるのに、彼は蕩けた表情で鳴いているのだ。
欲情の火の粉が舞い散るようで、サラフにも熱が感染したかのように、身体の奥底が燻るような感覚を訴える。
上がる声が逼迫してくるにつれ、ウィリアムの表情が隠微なものになり代わり、そして何度かの痙攣の末。
荒い息を吐き、ウィリアムの身体からくたりと力が抜けた。
「で?お前は試してみるんだろうな?」
アルテアの視線の先、確かにサラフの身体も発情している事が明らかになっていた。
実地で、と先に言われた通りなのだろう。わざわざウィリアムの膝裏を抱え、見せつけるように脚を開いている。
零れ落ちる体液に濡れた肌はまだ薄赤く上気して、虚ろな目は視点が定まっていない。
「そら、ここだ。今なら慣らしてあるからな、竜の大きさだろうが、そのまま挿れられるぞ?」
悪意の滲むような艶やかな笑みで、雄を受け入れていた部分を指先で拡げて見せ付けられ、サラフは息を呑む。
艶麗で勁い、何より近くでその手を――終焉を齎すためではなく、終焉から遠ざけるために――伸ばしてくれたひと。
未だ視点の合わない、潤んだ目許が緩く瞬きをする。
「さ、らふ……」
拙く誘っているかのように見えて、どうしようもなく白金色の瞳に引き込まれる。惹かれてしまう。
「ウィリアム……俺……」
着ていたものを脱ぎ捨て、白い肢体に覆い被さる。首筋に顔を埋めればふわりと魔術が香った。上質な、静謐で冷たい、なのに甘い。初めて触れた肌からは滑らかな質感と、強靭さを秘めた筋肉の温みが伝わってきた。
アルテアに言われるまま手を滑らせ、その肌を撫でる。胸の先の尖りを摘み、ぐりぐりと揉む。甘い魔術の香りにくらくらとして、顔を伏せた先の胸元に唇を押し付ける。喘ぐ声を聞きながら、張りのある胸の、先の情交の熱の名残に酔うように肌を吸い、尖りに歯を立てる。強く吸えば唾液に濡れたそこはいやらしい紅に染まって立ちあがっていた。
陵辱するのとさして変わらぬ強引さで胸を揉み、脚の間を探り、性急に自信の雄を押し付ける。
ぐいと腰を押し込めば、甘い呻きが上がった。熱く吸い付いてくる狭い胎内に眉を寄せ、何度も突き上げる。今でこのような痴態なら、呼気を吹き込んだならどれだけ乱れるものだろう。喘ぐ声に誘われるように唇を重ねようとすれば、これだけ乱れているはずのウィリアムの手に阻まれる。
「しゅく、ふく、は……だめだ、しんでしま、う……」
震える指先を舐めて祝福の代わりとし、込み上げる衝動のままに腰を進める。搾り取られるかのように蠢く胎内にもっと、と欲が出る。アルテアから奪うようにウィリアムの脚を取り、そのまま持ち上げて胸元まで押し付け、なおも深くまで繋がる。
先に受け入れていた雄の欲望で慣らされ、蕩けて濡れた体奥の深くまで穿ち、擦り、打ち付ける。
だめだ、大きい、大きすぎる、とあやふやな声を上げ、情欲に沈んだウィリアムの身体を貪るように。纏う香りのように舌先に甘い肌を舐め、吸い跡を残し、歯を立てる。喰い千切りたいほどの欲情が押し寄せる。
竜の宝を手にするというのは、このような感覚なのだろうか、と頭の片隅で思いが凝る。
堪え切れない快楽が背筋を昇り、たまらずウィリアムの腹腔に熱を吐き出した。
身体を離せばごぼりと音がして、溢れ出る欲望の雫が敷布を濡らす。
欲望を吐き出してしまえば、頭が冷える。
魔物より身体の大きい竜である自分が、遠慮もなく貪ったのだ。
どこか傷めてはいないだろうかと蹂躙していた身体に触れた。
「大丈夫か……ウィリアム……」
「ふん、これならまあ……子作りはどうにか出来るだろうさ」
影になってよく見えないが、アルテアは口許を笑みの形に歪めている。禍々しいまでの悪意に満ちた表情に、気付けば体液はどうにかされてしまったようで敷布には濡れた跡すら見当たらない。体液を取られたのか、と薄ら寒い感覚に襲われるが、アルテアはサラフに構わずウィリアムの上半身を抱え上げた。
「良かったなあ、ウィリアム。終焉しか齎さないお前が、新たな命を生み出す手伝いが出来たじゃないか」
喉の奥で嗤うその魔物は、サラフの前でウィリアムの顎を捕まえ、再び呼気を与えている。
思えば上位の魔物であるウィリアムの体液に損なわれている様子が見えないその魔物は、呼気を与えると舌を絡め、口腔をも犯している。
まだ続ける気なのだろうか、と見ていると、圧の強い視線がこちらを向いた。
「まだ続けられるだろう?……よし、もう一度やってみろ」
含み笑いを秘めた声に、先程までの情交を繰り返すよう命じられる。跳ね除ける事は出来たかもしれないが、サラフはそうしなかった。もう一度あの身体を貪りたい、と本能が囁く。甘い香りの、甘い甘い味のするあの肌を味わいたいと。飢えにも似た欲求は抑えるには大き過ぎて、今にもウィリアムに襲い掛かりそうになっている。
頭のどこかでは育ての親だと理解はしているはずなのに、けれども今は。
「ウィリアム……」
名を呼べばひくりと指先が動き、潤んだままの目がサラフを見る。
雌ではない。決して雌ではないのに。身体の大きさも竜とそう変わらない、高位の魔物。それがしどけない姿で、もう一度と脚を開いてくれているのだ。
あの熱い腹腔を穿ち、胎内を味わって、思う様交わる。その快楽を思うと、拒むなど考えられなかった。
膝を掴み、脚の間を緩く探る。アルテアに続いてサラフを受け入れていたそこは拒む様子もなく、ぬるりと指を飲み込んだ。
「上側の、中指の先あたりを撫でてやれ。そこが悦いらしいからな」
漸く、といった感じで服を解いたアルテアが、白い肌を見せながらウィリアムの肩を押さえつけ、ぬるりと粘液を纏ったままの雄をその唇に押し込んでいる。
それを視界の端に映しながら、指で胎内を探る。逸る欲望のままに性急に。けれど執拗に。
腹側の、指先に触れる肉の膨らみ。指の腹で触れれば、苦しそうな呻きが喉奥から響いた。
くい、と押せば腹が引き攣れる。緩く撫でてやれば、内腿が震える。なるほど悦いのだろう、と解ってしまう。
その小さな膨らみを弄われ、喉奥を突かれて、見ればウィリアムは涙目になっていた。そして身体は裏腹に、欲情の雫を溢れさせている。
体液が、と思うがもう一人の白い魔物はそれに触れても障りを受けたりはしないらしく、目尻を親指で拭ってやっていた。
「喉も悦かったはずだな?痛みも、苦しみもそのまま受け止めるお前だからな……それに、俺のこれが好きだろう?」
喉を内側から犯しながら、膨らんだ喉仏を指の腹で撫でる。窒息しそうなウィリアムが咽せ、喉が締まったようで、アルテアはごぼりと咳き込む喉を解放した。
「う、あ……は」
息を吸った所で再び喉を奥まで犯され、ウィリアムが身体を震わせる。
苦しげなのに妖艶で、指を挿れるだけでは足りない。犯したい。抱き潰したい。欲しい。噛みつきたい。
見ているだけで掻き立てられるのは欲情よりも強い飢餓感。
唾液に濡れた胸の尖りに歯を立て、きつく吸う。くぐもった悲鳴が物欲しげな媚声に聞こえてしまい、いきり勃つ雄を無理矢理突き込む。
狭い。狭いが滑って飲み込んで、奥へ誘うように吸い付いてくる。
先程と同じように膝を抱え上げれば、飲み込ませた部分がいやらしく濡れて拡がっているのが見えた。
苦しそうに呻いているくせに、悦がって欲しがっている。そう理解出来てしまう。何度も何度も突き上げ、飢えを満たすかのように蹂躙する。絡みつく肉の熱さに腰が止まらない。狭い部分を出入りする自身の雄が、ウィリアムを犯している、その事実にもぞくぞくと震えるような満足感が押し寄せた。
「喉が嫌なら舐めてみろ。……そうだ、大分慣れたな」
嬲るような口調でアルテアが口淫を強いている。ウィリアムはそれも拒まず、舌を伸ばしてそれを舐めていた。裏側から先端まで、何度も繰り返し、美味を口にしているかのように、時折先端に口付け、吸い付きながら。
慣れるまで強要されたのか、それとも。
受け入れて、愉しみを覚えてしまったのか。
どちらにせよ、今サラフの抱いているこの肢体は甘くて、食い尽くすまでは手放したくないと思えるものだった。
だから突き上げて、噛みついて、吸い上げて、心ゆくまで味わうのだ。体内に精を吐き出しても、その身体を手放さずに何度も擦り立て、再び腹腔内で欲情が兆すまで繰り返し。
はあ、としどけない吐息が溢れる。
胸に歯型と吸い跡をたっぷりと捺され、散々鳴き声を上げさせられて流石に疲れたのだろう、ウィリアムはくたりと寝台に身体を預けている。
「もう終りか?……子供の作り方を教えてやるんじゃなかったのか?」
悪辣な笑みで、力の入っていないウィリアムの身体を抱き上げると、アルテアがそう囁いた。
「これ以上は、もう……いえ、充分に教えたはずですよ」
「いんや、風竜はハーレムだったはずだ。それなら……複数を相手にする事もあるだろうさ」
ウィリアムを背後から抱え、すっかり慣れたその場所に雄を挿入すると、サラフに近寄るようアルテアが視線で示す。
膝裏を抱え、結合部が見えるように広げると、淫靡な声が囁いた。
「ここにもう一本咥えさせてみろ。これだけ慣らされたんだ、入るだろうさ」
あまりに酷い言い様に、サラフは呆然とした表情になるが、アルテアは構わずウィリアムの身体を揺さぶる。
「大丈夫だ、こいつは頑丈だからな。……それに前にもした事がある」
誰と、とは怖くて聞けない。けれどした事があるのなら……否、相手は竜だったのか。あんなにきつい所に二本も挿れてしまうのか。くらりとした頭で考えても答えは出ない。考える間にも、ウィリアムが甘い声を上げている。
頑丈だ、とは本人も言っていた。ならば大丈夫なのか。大丈夫なのだろう。
考えても解らない、それならと近付けば、挿入しやすい体勢を取るために限界まで両脚を広げられたウィリアムが愛欲に呑まれ、とろりとした視線を向けてくる。
「すまない、ウィリアム……」
「あ、あ……や、まって、くれ……」
「なんだ、焦らされたいのか?いくらでも付き合ってやるぞ?」
「ちがう、ちが……あぁ、ア……」
否定が喘ぎに代わり、ウィリアムの意志など置き去りにしてアルテアに弄ばれる。何度も繰り返し教え込んだ快楽は、後戻りなど出来るはずもなくウィリアムの心にも身体にも焼き付けられていた。
ウィリアムの背後のアルテアの動きに合わせ、腰を引いた瞬間にサラフは半ば無理矢理に挿入する。ウィリアムの引き攣ったような声は上がるが、拒絶するような表情はない。交互に突き入れれば上がる悲鳴はじきに甘く蕩けた。
腹が苦しいのか、涙が目尻に滲んでいたが、アルテアが舐め取っている。その刺激にも身体を震わせ、腹の奥から襲いくる快感にはくはくと息を飲んでいる。
「そろそろ一番奥を可愛がって欲しくなってきただろう?」
魔物らしい、刃のように鋭利な声がウィリアムを唆す。これ以上は、と切れ切れに応え、泣きそうな顔をするウィリアムの肩を掴み、アルテアがぐい、と押さえつける。
最奥を交互に突いていた所を更に押し込まれ、狭い道を無理矢理抉じ開けて入り込む。
孕んだかのように腹が膨らみ、苦鳴が上がる。逃げようとする身体を捕まえ、二人掛かりで押さえ込み、犯す。
アルテアが唇を塞ぎ、上がる悲鳴ごと舌を絡め取る。こぷりと濡れた音を立て、結合部から胎内に注がれた粘液を零し、再び零した以上に精を注がれる。
肉欲に酩酊し、貪欲に喰らい尽くすまで、ウィリアムを責め立てた。
上がる声は甘く、おぼつかない動きを見せる手は抱く身体を引き寄せ、縋り付く。
二人分の体液を注がれ続けたその腹部は孕んだかのような膨らみを見せている。
やがて声も枯れ果てる夜の帳の中、吐き出しても尽きない熱量を持て余したサラフは、身動ぎもせず目を閉じているウィリアムにそっと手を触れた。
「そろそろやめておけ。こいつは竜の宝にはならんぞ」
切れそうな程の鋭さで、静止の声が聞こえる。これ程の事をしたのに、と視線を向ければ、影にあっても光を孕んだ瞳がサラフを見ていた。
「でもウィリアムは」
返事の途中で言葉が途切れた。
ウィリアムが、どうしたというのだろうか。
そうだ、疲れているようだ。自分は一体何をしに来たのだろうか。番の夜の時間を邪魔してしまったのだろうか。魔物は狭量だというのだから、やはり謝罪して日を改めるべきだろうか。
違う、子供の作り方を聞きに……いいやそれは知っている。誰かが教えてくれた。怖くて綺麗な生き物が。
「もう帰るんだろう?出口は向こうだ」
震えの来る程甘く冷たい声が聞こえた。
そうだ、婚姻まであまり時間がないのだ。
稚い子供のように頷き、サラフは空へ舞い上がった。
「恩寵ねえ……お互い違うと知ってはいるが」
密やかな声は煙草の煙に溶けて紛れた。