普遍的な愛情と局所的な慕情

 鳥籠を解放し、後始末が終わると、夜会帰りに合流したらしいアルテアが顎で方向を示すのが見えた。
 疲れた、と思いながらもウィリアムは拒まない。今夜、眠らせてはもらえないのだろうと判ってはいたが、腹の奥が疼くのだ。疼くまで教え込まれたのだ。夜の営みを。
 その準備のようなものなのだろうか、住処へ戻ればアルテアが手料理を振舞ってくれる。普遍的な愛情を振る舞うのと同等の意味、とふと思い至り、胸の内が温かくなる。
 とろりと煮込まれたシチュー、オーブンから出てきた焼き立てのパン、マリネされた魚と野菜。そこまで手作りなのであろうサラダとそのドレッシング、そして辛口の蒸留酒。
 サラダこそウィリアムも手伝ったものの、千切った葉野菜の上にチキンを解して乗せ、そこにかりかりになるまで炒ったナッツと、ほんのり蜂蜜の香るスパイシーなクリームドレッシングがかかっている。更に口に入れてから気付いたが、軽く火を通してしゃくしゃくとした食感の茸が香気を薫らせていた。
 手間をかけて作られた、美味しい品々。
 人間なら、家族へ出す食事のように。
 無論それを口にする事はない。口にした所で、アルテアが肯定する訳もないと思えたし、実際そうしたのなら、悪辣な企みで粉々にされそうな気がしている。
 けれど気紛れでも手をかけてもらえる、それは過重労働で過ごす日々の、明らかな救いであった。
 食後に蒸留酒を傾けていると、皿を片付けたアルテアが戻って来るのが見えた。
「今夜は……寝かせてもらえないんでしょうね」
「ほう?お前が自分から強請るんじゃないのか?」
 苦笑混じりにウィリアムが聞けば、淫靡な笑みを向けられる。
 実際、この身体はアルテアの手でそのように教え込まれた。時間をかけて、手間をかけて。
 酔いとは別の熱に耳があつくなり、視線を逸らす。
 腹の奥の疼きも、触れられる予感に強まっている気がした。

 静謐な紫紺の夜の帷の中、当然のように寝室に誘われ、頷く。
 上質な寝具とまでは行かないものの、清潔でそれなりに肌への当りのやわらかな素材の敷布は、先日ウィリアムが求めてきたものだ。縁にやわらかな赤紫の刺繍があり、隠した内心を暴かれた訳でもないのに気恥ずかしく思いながらそれを手に取ったのだった。
 否、隠しきれてなどいないのだろう。
 ここまで当然のように寝室に入り込まれ、身体を交えているのだから。
 組み敷かれて祝福を受け、祝福を返す。呼気を吹き込まれ、熱くなる身体でアルテアを引き寄せる。何度も繰り返され、教えこまれた通りに。上から順に服を剥ぎ取られるのも何時もの通り。その手順を繰り返すのはアルテアらしいとも言えるものの、機械仕掛けのようで少しひやりとする。唇、喉仏、鎖骨へと唇で辿られ、肌蹴た胸を探られるが、アルテアの目には熱を感じられないのだ。
 飽きてしまったのだろうか、と足場の崩れるような感覚はあるというのに、それを聞くのが怖かった。
 だから、いつも強請るのだ。
「この身体は……いえ、もっと触れて、くださ……」
 言葉の途中で唇を塞がれ、胸を揉まれる。両手で掴まれ、先端を指先で擦られて、呼気を吹き込まれる。
 何時ものように。そしてウィリアムの身体は、教え込まれた通りに熱を持ち、雄を昂らせてしまうのだ。
 くらりとする頭で、ウィリアムもまたアルテアに触れる。きっちりと着込まれたスーツの釦を外し、クラヴァットを引き抜き、合間に祝福を与え合いながら。
 肌を撫でられ、先程から疼いていた胎がなお疼いてしまう。これだけ昂らされているのに、まだ下を寛げられてはいないのだ。全てを脱ぎ去って裸で抱き合えたら、その体温を感じられたら、と求めてしまう。
 アルテアにしがみつけば、噛みつかれるような口付けの合間に口蓋を舐められ、喉奥で甘えるような声を出してしまい、発情しているのを隠せなくなってしまう。
「疲れていると、こちらの反応が良くなるそうだぞ?」
 眇められた赤紫の瞳が月明かりの中でぼうっと光る。何時も疲れている、と思い、囁かれた言葉の内容に目を伏せる。
 何時も良い反応だ、と。そう言われているのだ。
「貴方が手慣れているんじゃないですか」
「さてな」
 会話だけが毎回違う、と感じながらアルテアのシャツを脱がせ、引き寄せると首筋を噛まれ、舐められる。痛みや擽ったさではなく、甘い感覚を覚えるようになったのは何時からだったか。
 むずむずと這い上る欲情に、たまらず服を消し去れば、ふと嗤う気配がする。
「どうした、待ちきれないのか」
「貴方は何時も焦らすでしょう……偶には良いと思いませんか?」
「そこを焦らすのが面白いんだろうが」
 焦らされて面白いだなどと、と思いながら、毎回言い包められて身体を拓かれて思う様手玉に取られてしまうのだ。
 今とてウィリアムより繊細な、それでもしっかりとした男の手は胸を包むように掴んでいる。
 焦らすと言った通り、アルテアは胸だけを弄んでいる。
「そうだな、今日はここだけを弄ってみるか?」
 何を、と言おうとした所で、アルテアの指先が乳首を摘む。摘んで捏ねられると、身体の芯に響く程の刺激に息が詰まった。
 指先に挟まれ、胸ごと揉まれ、体奥の疼きが止まらない。今までにも何度も繰り返し愛撫を受け、ウィリアムの身体は快楽を覚えこまされているのだ。 今もまたアルテアの手で体側を撫で上げられ、揉まれていた乳首にまで響くような痺れが走った。
「ん……っ」
 自分でも甘い声が出た、と恥ずかしさに視線を逸らすが、アルテアはそれを気にした風もなく、ウィリアムの胸を弄ぶ。片手に余る大きさの胸を掴み、ふるりと揺らすと、どこか満足げな顔をした。
「女の胸より余程大きいな。それに張りがあるんじゃないのか?」
 そう口にしながら尚も揺らし、困った顔のウィリアムを尚も追い詰めるのだ。
 指先で弾かれ、先端を擦られ、それが嫌ではない。それどころか明らかに快楽を感じてしまっていた。
 勃ち上がって赤味を濃くした先端を摘まれ、軽く引っ張られると、触れてもらえないままの雄がひくりと跳ねる。
「っあ、ある、てあ……」
「どうした?……嫌になったのか?それとも……」
「な、れて、ない、から……今は、もう少し……ん……ぅ……」
「もう少し?」
 意地悪く聞き返しながら覆い被さってきたアルテアが、勃ち上がった乳首を口に含んだ。ぬるりと舌が絡められ、突き刺すように鋭い快感に襲われる。ひくりと息を呑んだウィリアムを横目に見ながら、見せつけるように舌先で嬲っている。舌先で転がし、吸い上げ、甘噛みした末に、すっかり息の上がったウィリアムに聞くのだ。
「もう少し、何だって?」
 嗜虐の色を濃くした赤紫の瞳に、ああここでまた選ばせるのか、と奈落の淵に追い詰められる心地になる。
 以前の選択肢もそうだったのだ。やめてほしい、と言えばやめてくれるのだ。それも永遠に。された事を思い出し、身体が疼いても、もうその切り捨てられた選択肢は出て来ない。それを知っているから、言葉を選ぶ。
 やめて欲しい訳ではない、ただ少しだけ慣れる時間を持たせて欲しいのだ。
 だからこそウィリアムは正直に答える以外の手を持たなかった。
「もう少し、慣れるまでの時間を……嫌な訳じゃ、ないんです」
「ほう?……女のように優しく扱えという訳だな?」
 どう答えようと、ウィリアムはアルテアの嗜虐心を呼び起こしてしまうようで、今度は真綿で首を絞めるかのように、ゆるゆると揉み解される。乳首を指先で潰され、そのまま擦られる。爪を立て、軽く引っ掻かれると、乳首が痛いほど勃ち上がった。もう指先が掠めるだけでちりりと胎に響くのだ。これで優しく等とよくも言えたものだ、とウィリアムは唇を噛むが、噛んだ唇をアルテアの舌に舐め上げられ、はくはくと開いた唇をこじ開けて舌が喉奥まで入り込み、舌先を絡め取られて甘噛みされてしまう。熱を持つ乳首に触れられ、蹂躙され、ウィリアムにはもうどうしたら良いかが解らない。それでも与えられる愛撫を拒む事だけはせず、従順に受け入れ、昂る雄を顧みられないままに喘いでしまう。
「っあ、ん……む、胸、は……」
「胸は嫌、か?」
「いいえ、か、感じすぎ、て……んう」
 恥ずかしい事を自分から白状したと理解するより先に、快感の大きさに身が保たない。
 アルテアの身体に腰を押し付け、もう限界が近いと訴えてもまだ胸を苛める手を緩めてくれる様子はなかった。胸だけでここまで昂るのも、言葉にするのも慣れなさすぎて頭が燃えそうに熱い。そして本当に嫌ではないのだ。強い刺激に意識が飛びそうになるだけで。
「感じるのか。なら……こういうのはどうだ?」
 指より優しいかは知らんがな、と。そう言ったアルテアの手には、その身に纏っていた耳飾り。発条で止める、結晶石の連なりがきらきらと輝く、上質なそれ。光に目を向けると、それはウィリアムの乳首をぱちんと挟み込み、呻きを上げさせた。
「な、なん……なんで、そんな……」
 きりきりと締め上げられ、散々愛撫されて赤く染まった乳首が、更に血の色を濃くする。
 外そうとした手が、けれども止まってしまうのは、選択肢を差し出されたからだ。
 拒否したら、恐らくはもう、胸への愛撫はなくなるのだろう。ここまで執拗に責められるのも困るが、微塵も触れてもらえなくなるとしたら。この快楽を失うとしたら……ひいてはアルテアからの取り分が減ってしまうとしたら。
 ぶるぶると震えながらも、受け入れてしまう。
「嫌ならそう言え。それとも……」
 アルテアは意地悪く言葉を切り落とし、ウィリアムの乳首を苛む耳飾りを指先で揺らす。
 締め付けられ、揺らされて響く刺激が胎に響く。そこだけでは物足りないのだ。胎が飢えているのだ、と。言葉に出来るのであればそうしたであろう思いの丈は、混乱して塵と消えた。
「……あなたが、欲しいのに……っ」
 面食らったのか、目を見開いたアルテアの動きが止まる。
 半分くらい泣いてしまっている自覚はあったが、ウィリアムはそのまま身体を入れ替え、アルテアを押さえ込んだ。
「なのに……いつも、焦らされて。貴方は楽しいかも知れませんが、俺は……俺、は」
 ぐ、と奥歯を噛み締め、餓えた胎を満たすべく、アルテアの雄を後ろ手に握る。下の口は未だ慣らされていない。胸ばかり苛められて、欲情ばかりが育てられてしまった。早く。早くこの胎の疼きを満たして欲しい。握ったものを擦り、緩く芯を持ったところで性急に入口に押し当て、腰を落とす。けれど。
「ほう?愉しんでいるんじゃなかったのか?」
 どう見ても愉しんでいるだろうが、と伸びた手に胸を鷲掴まれ、動きを止められる。先程までの熱のない色とは違う目に、背筋がぞくりとした。
 耳飾りがきつく締め上げた乳首を上から押し潰され、ぐりぐりと捏ねられる。もう片方はぐい、と胸肉を掴まれ先端に向かうように絞られる。
 指が食い込むが、痛みよりも湧き上がる欲情に力が抜けた。傾いだ身体を向かい合わせに抱き上げられ、胸の先端を再び口に含まれ吸われた途端、ウィリアムの身体がびくりと跳ね、アルテアの腹にぽたぽたと白い粘液がこぼれ落ちる。
 もうだめだ、と堪え切れない衝動と、隠し切れない欲情に悔し涙が溢れて落ちた。
「何故抱いてくれないんですか……っ ここまで、焦らしてまだ駄目なんですか!」
「泣くな、俺を殺す気か」
 見ればアルテアの腹に落ちた涙が、その肌を焼いている。否、凍らせて崩れさせている。黒く焦げて血が滲んでいる。
 もう一方の体液ではそうなっておらず、じわじわと広がる肌の焦げ痕に怒りより焦りが勝り、慌てて目許を拭う。
 その動きにも胸に付けられた耳飾りが揺れ、吐き出したばかりなのに再び雄が勃ち上がりはじめた。
「回収しておけよ」
 顎を掴まれ、呼気を吹き込みながらアルテアが言う。回収と言われて屈み込み、その肌に滲んだ血の跡に口付け、自分の涙を舐めとった。アルテアの血が混じっていても良いのだろうか、とふと思い、障りは受けないはずだと一つ一つの傷跡に口付ける。胸許の一つ、腹に三つ、脚に一つ。華やかな魔術の香りと血の味に、兆した欲情が再び熱を持つ。
 そして眼前のアルテアはと言えば、余裕の笑み同様身体的な欲情は上手く隠されているのか、頬には赤みすら差していない。先程少し芯を持つ程度には兆したはずが。
 修復を重ねながら体液を回収し、そして。
「おい……」
 性急さを隠しもせずアルテアの雄を咥えこみ、舌を這わせる。これが欲しいと伝えるつもりで。
 先端を吸いながら根元を扱き、以前に教えられたように、そして喉奥まで飲み込むように。喉奥の狭い所で絞るように、そして口腔内で吸いながら、何度も上下し、アルテアの発情を促すように。じゅぷ、と濡れた音を立てて繰り返す。咎めるような言葉を寄越すが、それでも動きを止めさせないアルテアは、自身の雄を咥えている様を楽しむように、ウィリアムの口許が見えるよう髪を耳に掛けてやり、そのまま指先で耳朶を擽った。
 口腔を満たすほどに育てたそれの先端に口付けを落とし、アルテアを見上げる。
「アルテア……もう、焦らさなくても良いでしょう?」
 ふ、と唇の端を持ち上げ、凄艶な魔物が口を開く。
「……そうだな、今回は……上手く選んだようだな」
「貴方の差し出す選択肢は怖いですからね…」
「お前に怖いという感情があったとはな」
 軽口を叩きながら、今度こそウィリアムを抱く気になったのか、アルテアが身を起こし、ウィリアムを組み敷く。
 互いの瞳が散らす薄明かりに、仄かに肌が浮き上がる。その暗がりで見る不穏な笑みが、まだ終わっていないとウィリアムに知らせるのだ。
「それで、どうして欲しいんだ?」
「……折角ここまでにしたんです。……抱いて、くれませんか」
 アルテアの雄に、そっとウィリアムが手を触れる。口腔内で育てたままに熱をもち、猛る雄。いつもこれでウィリアムを鳴かせる、手に負えない獣のようなそれ。先程から何度も伝えているというのに、誘ってきたのもアルテアだというのに、自分から抱こうとはしないのだ。
 手を伸ばして選び取れ、という事なのだろう。ならばと自らの膝裏を抱え、脚を開く。
 幾度となく抱かれて、アルテアのやり方は既に身体が覚えていた。
「胎が疼いて……ここに、貴方が欲しいんです」
 ふ、と笑う気配がある。欲しい、とはっきり言ったし、膝を折ったも同然の事をしているのだ。これ以上焦らすのなら、矜持も立場も捨てて泣き喚いてやろうか、と腹の底で考えた。
 それが成るより先に、アルテアの指先がウィリアムの唇を辿る。舌先で舐めれば、その指が脚の間を探り、待ちきれないと熱を持った体内を緩く擦る。
 中指の先で胎の中を探られ、悦いところを押し込まれ、物足りないのに溢れた快楽が腹を濡らした。
 吐息を漏らすと、アルテアの祝福が落ちてくる。祝福を返し、くらくらとする頭でアルテアの体温が欲しい、と強く思う。思うが与えられるのは、指先の分だけ。やはり泣き喚いて地団駄を踏んで、強請り取るべきなのか、とそこまで考えた辺りで、指が引き抜かれる。ああやっとか、と思う間も無く入り口に押し当てられた雄が、肉を割り開きながら胎内へと侵入してくる。身体の内側に押し込まれる質量に息を吐き出し、考えは形を取る前に快楽に溶けて消え失せた。
 狭いけれど慣らされた道を、強引に、けれどじわじわと辿られ、呆気なく声が上がってしまう。ウィリアムはそこまで情けない声を上げるつもりなど無かったというのに、入口を擦られた、ただそれだけで待ち望んでいた身体が悦んでしまうのだ。その上深くまで侵入され、最奥を突き上げられる。慣らされた身体はどうしようもなく蕩けてしまい、内壁がアルテアの雄に悦んでいる事も、その雄に吸い付いて精を絞り取ろうとしているのも既に意識にはなかった。
「随分慣れたものだな?」
 僅かに息を乱した、そして先程とは違い、明らかに欲を滲ませた赤紫の瞳がウィリアムを見下ろしている。
 欲しい、もっと欲しい、と強請るより他には出来ず、教え込まれた通りにアルテアの雄を締め付け、自分からも腰を動かすが、相手の余裕は崩れもせず、ただウィリアムだけが必死に求めている。自ら抱え上げていた膝裏を手放し、伸し掛かる男の身体を抱え、脚を絡め、挿れられたものを体奥で味わう。甘い、酷く甘くて熱い。揺すぶられると、乳首を締め付ける耳飾りが揺れてしまい、胎に響く。それを知ってか知らずか、アルテアは抱き付いているウィリアムの胸を揉み、乳首を舐め回し、吸い上げ、きつく噛みつき、嬌声を上げさせる。
「ぁ、うあ……ある、てあ、あるて……あ……」
 切れ切れに名を呼ぶしか出来ず、ウィリアムは与えられる快楽の大きさに溺れてしまう。溺れて喘ぐ喉に歯を立てられ、痛みに身を竦めれば、最奥をこつこつと突き回され、捏ねるように揺らされてしまい、言葉になる前の声ばかりを零すしかなくなってしまった。
 緩急をつけて抉られ、触れられて狂いそうだ、と頭のどこかが思っている。そのどこか以外は、もうアルテアの事しか考えていない。
「お前はここが好きだな」
 尋ねる訳でもなく、知った事を確認するように、けれど熱を孕んでアルテアは組み敷いた身体を貪る。何度も突き上げ、揺さぶり、上がる悲鳴を吸うように口付け、その肌に触れる。
 矜持すら放り出して、抱かれて悦んでいる。第二席の魔物が。膝を屈するという選択に、更に選択を重ねる。
「そうだ、お前は俺に抱かれるし、俺を崩壊はさせない……そうだな?」
「っあ、ふ……させ、な……あぁ……」
「自刃もしないし、あれを置いては行かない、そうだろう?」
「しな、しない、から……もう、あ……あぁ」
 あれ、と王を指して選択肢を示せば、朦朧とした返答が還る。
 けれどそれは既に選ばれ、選択は成された。であれば、もうこの後は愉しむだけなのだ。
 ウィリアムが満足するまで、朝と言わず昼まででも。この気晴らしに付き合おう。
 
 それが例え一時的なものであったとしても。

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