けだまのきもち2

 中庭に面した小部屋で、ムグリスに擬態したディノが可愛らしい、とネアが無邪気に喜んでいる。
 今日はこの小部屋でのお茶をしようという話だったので、皆で集まっているのだ。

 最初はノアベルトがボールの話を始めてしまい、ああこれは何時ものやつである、と苦笑しながら眺めていたのだが、途中から毛皮の話になってしまい、ノアベルト……この体じゃ毛皮がないよ、と即座に擬態した狐の毛皮とムグリスの毛皮、どちらが良いかという流れになってしまったのだ。

 無論ネアは上手に捌いて、銀狐は満足そうな不満げな、けれど取り分はしっかり取った気分なのだろうか、機嫌よくぱたぱたと尻尾を振り回している。
 けれどその分ディノが不満になったのだろうか、ネアは宥めるように手のひらの上のムグリスに家族相当の祝福を与えたのだった。

 案の定ぱたりと儚くなったムグリスを指先で撫で、こちらに微笑んでいる。

「…………まあ、そうだな。契約の魔物を大事にするのは良いことだと思うぞ」

 そう言うと、銀狐は自分も大事にされるべきだ、とでも言わんばかりの勢いで、エーダリアの膝に飛び乗ってきたのだ。

「そう、だな…………私の契約の魔物はお前なのだ、大事にするべきだとは、思っている」

 そう告げれば何やらとても嬉しかったらしく、狐は上機嫌で膝の上でくるくるごろり、とうねっていた。
 実際、とても助けられているのだ。大事にしたいとも思っているのだが、エーダリアにはそれをどうしたら、どのような手段で伝えたら良いのか、それはまだ良く解らないのだった。

 であるならば、その道の偉大な先達であるネア同様、この狐を撫でてやれば良いのだろうか、とふくふくした毛皮を見せつける狐の腹をそっと撫でてやると、嬉しいらしくムギャムギャと甘えた声を上げた。
 なるほどこれが正解なのだろう、と両手でもふもふと撫で捏ねてみれば、更に喜んだものか、むきゃーと聴いたことのない声を上げていた。

「エーダリア様、お顔が緩んでおりますよ」

 自分もやわらかい表情で、ヒルドが言う。確かにそうなのだろう。手に触れる狐の体温も、柔らかな毛皮の感触も、心を蕩かすのだから。
 どうしようもないのだ、と狐を見ると、起き上がって飛びついてくるのが見えた。

「狐さんの祝福なのです?」
「…………ネイ……」
「…………きつねのしゅくふく……なのだろうか……」

 顔がぶつかった、と思いきや、家族相当の祝福だったようで、混乱したエーダリアの周囲には得意げな銀狐と、面白そうな顔のネア、そしてどうしてそうなったのだ、と半眼になった妖精がいたのだった。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

This site uses Akismet to reduce spam. Learn how your comment data is processed.